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いっしゅうかん。

 扉を開けると、そこには青空が広がっていた。少し風が冷たい。一歩進んで屋上を見渡すと、数m先にアイツはいた。
「こらっ、またサボる気なのっ!?」
 腕を枕にして眠っていたアイツはそっと目を開け、不機嫌そうに私を見た。
「なんだ、またお前か。俺のことはほっとけって」
 てか、いつもサボってないし、と付け加えて、また目を閉じた。はぁーっと溜息をついて、私はアイツの隣に座り込んだ。
「あと一週間で卒業なのに、何で今更サボろうとしてるわけ?」
「……」
 アイツはうんざりした様子で起き上がり、座り込んだ。
「どうして?」
 私は問い直した。すると、アイツはずっと遠くの空を見て答えた。
「なんか、最後にやってみたかったから。屋上でのサボリ」
 私の方を見て、にぃっと歯を見せて笑った。
「でも今は困るよ」
「なんで?」
「次、委員会。しかも、あんたが委員長だよ。後輩にそんなとこ見せていいの?」
 呆れたように私は言った。

 遠くで予鈴が鳴っているのが聞こえる。

「そーか、委員会。……なんで俺は委員長になったんだろうな」
 苦笑しながら呟いた。さぁ、と私は答え立ち上がった。アイツも立ち上がる。
「サボるんじゃなかったの?」
「サボったら困るんでしょ、お姫様」
 アイツは笑いながら校舎の中に入っていった。私は一瞬固まったが、吹き出してしまった。
「もうっ、置いていくなぁー!!」
 笑いながら、アイツの後を追った。次は委員会。久々に一緒に活動だ。

 私は、四宮皐。アイツは、神野悠。ともに中学三年。あと一週間で卒業だ。今までずっと同じ学校だったけど、四月からは違う。私は、隣の隣町の進学校。悠は、この町の高校。それぞれ違う高校で新しい生活を迎えることになっていた。だから、後少しでお別れだった。


「ではー、各自解散ということで。終わります」
 委員長がそう言うと、教室の空気が一気に緩んだ。

「先輩、お疲れ様です。あの、これよかったら」
 三人の後輩が私にお菓子をくれた。最近、こうゆうのが多い。正直うざかったが、ありがとうと微笑んで頂いた。
「人気あるねー、皐姫」
「一応ちゃんと築いてきたから、優しい先輩」
「うわ、皐ちゃん、恐い!!」
 委員長もとい悠が笑いながら言った。

 もう他の委員会は終わっていて、教室には誰一人の鞄も気配もなかった。弥未も帰ったようだ。
 一人、教科書を鞄に詰めていると廊下から悠の声がした。
「一人ー?」
「……見りゃわかるじゃん……」
「久々、一緒に帰る?てか、送るよ。姫様」
 からかうように笑いながら言う。いや、思い切りからかってるか。
「家逆だよ。それになんで姫なわけ?いい加減やめてよね」
 本当は嬉しかったりするのだが。でもけじめはつけなきゃ、ちゃんと。
なんて自分に言い訳してたら、すいっと鞄が消えた。
「まぁ気にすんな。行くぞ?」
「ちょっ……待ってよ、鞄返して!」
 悠は私の言うことなんて気にも止めないで、さっさと教室を出ていった。
 なんとか追いついた私は悠から自分の鞄を奪い取った。乱暴だねぇ、と呟きながら悠は歩調を私に合わせた。
「ほんっと久々だな。最後かもしれねぇな、一緒に帰るの」
 悠は寂しそうに言った。
「まだ一週間あるって。今度は弥未とも帰ろ?」
 私は悠の顔を覗き込むようにして言った。正確には見上げて、だが。
 悠は返事の代わりに苦笑した。……あぁ、この人、この前弥未に失恋したばっかだった。直接じゃなくて間接的に。ほんの一週間前に弥未に彼氏が出来たのだ。
 ……ちょっと失敗……今、禁句じゃんか、バカ皐。
 私が心の中で突っ込んでると、悠はまた苦笑して言った。
「別にいーよ。仕方ないしさ、普通にしてくれた方が楽だし」
「ぁっ、ごめん」
 沈黙が続いた。何か切り出そうと頑張ってみるが、話題が浮かばない。

 ふと悠が思い立ったように口を開いた。
「そだ。明日、土曜日じゃん。暇?」
「うん……暇だけど、どうかした?」
「ん、弥未たちとダブルデートしねぇ?」


 は。何を言った、この人。ダブルデートって……あれだよね、二組の男女がするデートだよね……。


「えぇ――!?」
「……そんな驚かなくても」
 悠は笑った。


結局行くことになったのは言うまでもない。
「……勢い余ってOKしたのはいいけど……」
 着て行く服無いよ……と溜息をついた。普通でいいんだけど。うん、普通に行こう。どうせメインは弥未たちだし。
「んーじゃ、これでいいかな」
 春らしく淡いピンクのカッターシャツと青に近いジーンズを選んだ。ワンポイントにお気に入りのネックレスでもしていこう。
「さて、明日のために寝ますか」
 私はいつもより大分早くベッドに入った。

 まだこの時は知らなかったんだ、私も誰も。あんなことになろうとは……。



「ごめんっ、遅れた」
 悠が手を顔の前に合わせながら走って来た。待ち合わせより十分そこら経っていた。もちろん言うまでもないが、提案者は悠である。
「もう、悠が遅れて来てどーすんのよ!」
 弥未が笑いながら言った。私もその隣で笑っていた。
「ホント、ごめんって!じゃー……行きますか」
 悠は無邪気に笑って言った。そして、四人は遊園地に向かった。

 雲一つない快晴で、とても暖かい朝だった。

「まずは……、」
「「「ジェットコースター!!」」」
 悠と弥未と弥未の彼氏・颯太が周りの目を気にせず叫んだ。しかもハモった。
「あれ、皐どうかした?」
 輪の外に微妙に出ていた私に気付いた弥未は、心配そうに覗き込んで言った。
「ううん、なんでもないよ!ただ……」
 乗り物系ダメなんだよね。私はみんなにすまなそうに言った。ダメならダメでこんなとこに来るなよなぁ、とツッコミながら。

「え、全部?」
「全部」
「んーでも金もったいないしな……せっかく来たのに」
 颯太はつまらなさそうに言った。弥未はすかさず腹にパンチを加えた。
「あんたねぇー……」
「あ、私はいいから。みんなは遊んで来てよ」
 喧嘩が始まりそうだった二人の間に入って皐は明るく言った。
「でも……」
 弥未は寂しそうに言った。

「あ、じゃあさ」
 悠が思い立ったように間に入って来た。
「こっから別行動にしよーぜ。俺、皐ちゃんと行くし」
「え、いいの?」
「いーよ、だから二人で楽しんできなよ」
 悠は笑顔で弥未と颯太を送り出した。
 弥未たちが人込みに消えた頃、私は悠の方へ向いた。
「いいの、私といても楽しくないよ?」
「いいよ、誘ったの俺だし」
「でも」
「んーじゃ、“皐”って呼ばさせてくれたら、チャラってことで」
 悠は無邪気に笑った。
「……別にいいけど」
「じゃ、俺のことも“悠”って呼んでよ」
 “お前”じゃ嫌だからな、と付け加えた。お前って呼んでたっけ……?
「じゃ、悠」
「えっ」
 悠は顔を赤くして、動揺していた。……って、あんたが呼べって言ったじゃん……。
「……何赤くなってんの」
「だって、すんなり言うから」
 変なヤツ、と私は笑った。悠も頬を掻きながら、笑った。
「……ぁ、弥未ちゃんたちだ」
 悠は空を見上げて言った。ちょうど弥未たちが乗ったジェットコースターが頭の上を通り過ぎたところだった。一番前に乗っていた……よく乗れるよ……。

 私と悠はそのあとその場を離れた。そしてお化け屋敷やミラーハウス、ピエロのミニサーカスを見て回った。悠はずっと楽しそうに笑っていた。

「疲れたね」
「結構歩いたもんなぁ。一周くらいしたかな」
「どうだろーね」
 私はひょいっとフェンスに腰掛けた。悠と同じくらいの頭の高さになる。
 ふと顔を横に向けると、悠と目があった。なんだかおかしくて、ぷっと吹き出してしまった。悠もつられて笑う。

 すると悠が急に寂しそうな顔をした。
「どうしたの……?」
 私はゆっくり言った。傷口に触れるかのように、恐る恐る声を震わせながら。悠は黙ったまま、私から視線を外した。気まずい雰囲気になり、私はここから離れたくなった。でも、離れてはいけない、悠の傍にいなきゃいけないような気がして体が動かなかった。
 私は、しばらくの間悠の横顔を見つめていた。どれくらい見つめていただろう。悠はぐいっと私の腕を引っ張った。
 何がなんだかわからなかった。悠は私にキスをしたのだ。それも優しく触れるだけのキスを。

 私は悠の手を振りほどき、フェンスから降りた。そして手を振り上げ、悠の頬を叩いた。

 ……パシーンッ……

「何……するのっ……?」
 涙をぽろぽろ零しながら、私は怒ったように言った。悠はただ私が叩いた頬に手を当てて、「ごめん」と呟くだけだった。それがとても哀しくて。私は走ってその場を離れた。


「あれっ、悠、皐は?」
 一人佇んでいる悠の姿を見つけた弥未は、すぐに駆け寄った。
「……知らない」
「知らないって何!?」
 弥未は怒りの交じった声で叫んだ。そして颯太に何か呟いて、皐を探すためにどこかへ走って行った。
「……何かあったんだろ」
 颯太は呆れたように言った。
「……皐ちゃんにキスした……」
「はぁ?何やってんだよ、お前は」
「自分でも馬鹿だと思ってるよ。だから……後も追わなかった」
「ったく、何を思ってそんなことしたんだよ」
 颯太は面倒臭そうに頭を掻きながら聞いた。悠はうつむいたまま、一言だけ呟いた。
「……可愛かったから」
 バコッ。
 思いっ切り殴られた。
「……他にもあんだろ」
 やっぱりわかるか。
「……俺さ、弥未ちゃんが好きだったんだ。でも、お前と付き合うことになって。仕方ないか、って諦めてたんだ。何もかもやる気失せて一人でいたとき、皐ちゃんが来たんだよ、俺を呼びに」
 それがあの日だった。誰も探しに来なくて、呆れてたときやって来た。意外だった。颯太も探しに来なかったのに。ただ委員長だからという理由だったが、嬉しかったんだ。……存在を認めてくれて。
「……そうか。悪かったな。探しに行かなくて。いつものことだと思ってた」
 颯太はすまなそうに言った。純粋に。こいつが親友でよかったと思う、本当に。
「だからって、あんなことしたのか?」
 颯太は静かに言った。悠は首を振った。
「違う。でも……本当のところはよくわからないんだ」
「……好きなのか?」
「もしそうだとしても、今更無理だよ」
 悠は寂しそうに笑った。颯太も見ていて辛かった。だから、あれだけ言うなと言われていたことを言ってしまった。殴られるな、と心で苦笑しながら。

「それはまだわからないんじゃねーの?」
「なんで」
「……皐ちゃんはお前のことが好きだから」



「皐っ、今何処?!」
 弥未は皐に電話しながら、走っていた。
『入口の近くの店の裏……』
 涙声で聞きづらいが、仕方ない。そこで待ってなさいよっ、と言って電話を切った。

 ようやくその場にたどり着いた弥未は、すぐに私を見つけた。
「大丈夫?何かあったの?!」
 心配そうに私の顔を覗き込んで来た。当の私は涙で顔がぐちゃぐちゃだった。
「ゆ……悠に……キスされたっ……」
「いきなり?」
 私はこくんと頷いた。弥未は溜息をついて、呆れた。
「ったく、アイツは何考えてんのよ……」
「……ふぇっ……」
「ほーら泣かないの!何で泣いてんの」
「だって……悠は……弥未のことが好きなのに……っ!」
 これには弥未も唖然とした。せいぜい驚いたとかだと思ってたのに、自分が好きだと爆弾発言された。
「……それ、本当?」
どーか嘘ですようにと祈りながら尋ねたが、玉砕。こくりと頷かれてしまった。
「私は、颯太と付き合ってるんだよ?」
「……いーね、幸せで」
 だんだんと落ち着いてきた私は、反抗したように言った。でも弥未には効かなかったようで、
「だから……悠も諦めてると思うんだけど」
 とすんなり無視されてしまった。
「……皐、これからどーするの?」
 弥未はなるべく明るい声で言った。
「私……どうしよ……」
 すっかり泣き止んだ私は、逃げ出したことを後悔していた。あんなことしたら……悠も困ってるよな。

       #

「ぇ」
 悠は目を丸くして、颯太に聞き返した。
「だーかーらー、皐ちゃんはお前が好きなんだっつーの!」
「ははっ……何、冗談言ってんだよ……」
「お前、馬鹿か」
 颯太は冷たく言い放した。悠は戸惑った。颯太の言うことが信じられなかった。なんで……こんなにも近くにいたのに……。いつも笑っていたから。
「俺は……ただ傷つけてた……だけだったんだな……」
 悠は苦笑いした。すると、とんっと颯太が肩を叩いた。はっとなって悠は颯太を見た。颯太は笑っていた。
「ほら、行けよ。入り口ん近くでいるみたいだぜ?」
 悠は「ありがとう」と呟いて、その場を後にした。
 颯太ははぁーとため息をついて、持っていた携帯を耳に当てた。
「やっと動いたよ」
 苦笑いしながら言った。

「……うん、わかった。今からそっち行く」
 弥未は携帯の奥の声と話していた。たぶん颯太だろう。こっちをほっぽって、何やら話し込んでいた。何度か頷いて、弥未は携帯を切った。
「ちょっとさ……颯太が呼んでるから……行ってくるね」
「えっ?ちょっと……」
 ゴメンねー、と弥未は言いながらその場を後にした。……ひどい。

「えー……私、どうしよう……」
 誰もいなくなって、なんだか寂しくなった。こんな裏側で一人もなんか変だ。ははっ、と笑いながら立ち上がった。

「……皐」
 顔を上げると、走って来たのか息を切らした悠がそこにいた。少し戸惑った。変な顔、していなかったらいいけど。
「……悠……」
 声を震わせながら、私は名前を呼んだ。

 その瞬間だった。
「!」
 悠はいきなり私を抱きしめた。優しく、でも何処か強く……。
「ごめん……」
 悠は小さく呟いた。私はただ一度頷いただけで、何も言えなかった。
「皐……俺な」
「……弥未が好きなくせに……なんでこんなことするの?」
 私は冷たく言った。悠の腕が少し緩んだ。それを見て私は悠を突き放した。
 悠は俯いたまま、それに従った。

「私の気持ちも知らないで……」
 私はまた泣いていた。涙がぼろぼろと零れた。ただただ悔しかった。

 涙を見せないように俯いていると、そっと手がのびてきて涙を拭った。悠の手だった。ぽんぽんっと頭を優しく叩くと、また私は悠の腕の中に収められた。今度はいつでも逃げ出せるように、緩く抱きしめられていた。
「ごめん……。いっこだけ聞いてくれる?」
 私は何も反応しなかった。ただ体を悠に預けていた。
「……俺はもう弥未ちゃんのことは好きじゃないよ。俺が好きなのは……」
 皐だ、と私の耳元でそっと囁いた。
 私は逃げなかった。ただ泣いているだけだった。それでも悠は、ずっとそのまま傍にいてくれた。

 私が泣き止む、その時まで。



「皐たち、上手くいったかな?」
「何とかなるんじゃねーの、あいつらだし」
 弥未と颯太は、観覧車で笑っていた。そして待っていた、その時を。

 しばらく経って、私はだんだん落ち着いてきた。まだ悠の腕の中にいた。
「……悠」
「ん?」
「私は……どうしたらいい?」
 何を言えばいいのかわからなくて、意味のわからないことを聞いてしまった。悠は少しだけ笑って、言った。
「んーじゃぁ、卒業式の後、返事ちょーだい」
 さ、戻ろっか、と悠は私の顔を見て笑った。そして、私の手を取り、弥未たちを探すために歩き出した。



 あれからあっさりと弥未たちは見つかり、残りは喫茶店やおみやげ店で時間を潰した。悠はずっと私の傍で笑っていた。

      #

「弥未ー!」
「どしたの、皐」
 日曜が過ぎ、また月曜がやって来た。朝、教室に着くと、まず弥未のもとへ向かった。
「どーしようっ、私!」
「何が。卒業式は金曜だよ。まだ時間はある」
「そーじゃなくて!」
「何よ」
「課題するの忘れてた……」
 しかも、家庭科の服飾の課題を。弥未ははぁー、とため息をついた。何て言ったって、まだ布を裁つことしか出来てないからだ。

 ……居残り決定。

「わーん、終わんないよ!」
「黙って縫え」
 弥未は冷たく言い放った。それもそのはず。放課後のデートを断って、私に付き合ってくれてるのだ。やり始めて1時間。やっとワンピースが完成。しかもミシン縫いで。
 最後の課題は、卒業式後の送別会で着るドレスだ。ワンピースを下地に飾って仕上げる。弥未は青がベースのシンプルな大人っぽいドレスだ。
「あとは飾りだね。どーするの?」
「……」
「まさか皐……考えてないの?」
「だって私、デザイン力無いんだよ?!」
 はぁー、と弥未はため息をついた。卒業式に間に合うかしら……。

「えー今日も一緒に帰れないの?」
「ゴメン、皐の課題出来てないの」
「別にいーけど。ぁ、悠、帰ろーぜ」
「うんー」
 弥未はため息をついた。なんだか、疲れた感じがする。
「弥未?」
「……ぁ、皐。もう行く?」
「颯太くん、待ってるよ。行って」
 とんっと弥未の背中を押した。そして、バイバイと手を振った。

「まったく、一緒に帰りたいなら言えばいいのに」
 私は弥未の背中を見送りながら、ため息をついた。
「あーデザインどうしよっかなぁ」
 教室を出て、服飾室に向かった。

 本当はちゃんと考えてあるんだ。



「はーい、卒業式が始まりますので、静かに並んでくださーい!!」
 先生が涙目になりながら、叫んだ。
 予行通りに式は進んで行った。最後に近づくにつれて、泣く人が増えてきた。

 課題はなんとか昨日終わり、採点にも間に合った。なかなかの上出来らしく、初めて先生に褒められた。

 なんだかんだと時は進み、やがて夜となり、送別会が始まった。卒業生は自分が作った服を身につけて、会に参加した。もちろん、男子もだ。
 私は会場の外でいた。少し肌寒い。みんな綺麗だなぁと思いながら、会を見ていた。私は会場に足を踏み入れた。すぐに弥未と颯太がこちらに来る。
「綺麗に出来てるじゃん!やるーっ!」
「弥未と対照的な感じだな。似合ってるよ」
「ありがとう。……えっと……――」
「悠なら、あっちにいるよ」
 弥未が指差す先に悠の姿があった。頑張れ、と弥未と颯太が送り出してくれた。
 私は真っ直ぐに悠のもとへ歩み寄った。
「悠」
「ん、皐。……綺麗じゃん。お姫様だな」
「ありがとう。悠も似合ってるよ」
「サンキュ」
 悠は、にかっと笑って言った。そして、ステージの方に目を向ける。後輩達が出し物をしていた。
「……今なら抜け出してもわかんないよな」
「ぇ、うん、そうだね」
「屋上行こうぜ!」
 悠は私の手を取って、会場を出た。そして暗くなった廊下を歩き、階段を上って屋上に出た。
「うわっ、寒い!大丈夫?」
「平気、大丈夫だよ」
「嘘つけ、震えてるよ」
 悠はジャケットを脱ぐと、ふわぁっと私の肩にかけた。
「……あのさ、悠」
「ん?」
「高校、違うね」
「うん。もう会えないな」
「会いたいな」
「え?」
 悠は驚いたように、私の顔を覗き込んだ。私も悠を見る。そして微笑んで言った。
「私も好きなんだ」
 悠はそっと私を抱き寄せた。
「俺のこと?」
「他に誰がいるのよ」
 私は笑って言った。悠は腕に力を込めた。
「俺も好き……」
「うん、知ってる」
「絶対会えるな」
「会えないなんてこと、無いよ」
「なんで?」
「だって会いに行くもん」
「可愛いヤツ」
「うるさいなぁ」
 私と悠は顔を見合わせて笑った。静かな屋上に笑い声が響いた。

「本当、なんであんなこと言ったの?」
「えー……だって私は会ったときから、好きだったのよ」
「はっ?!な、な……」
 悠は顔を真っ赤にして私を見た。
「……お前、普通に恥ずかしいこと言えるんだな」
「本当のことだから、ね」
「皐にはずーっと辛い想いさせてたんだな……。ごめんな」
「謝ること無いよ。一方的な恋だってわかってたし」
「でも、いろいろ相談したじゃんか」
「いーの!悠が笑っていてくれればよかったから」
 悠はそっと私の肩を抱き寄せた。
「なんかする」
「いいってば」
「俺はよくないの。してほしいこと、なんかある?」
「無い」
「……」
 悠は、はぁーとため息をついて手に力を入れた。そして沈黙が流れた。
「……じゃぁさ」
 私は呟いた。
 そして、そっと悠の耳元で囁いた。


 ――ずっと傍でいて。そしてずっと笑っていて。




 こうして私たちはこの学校を去った。そして新しい生活へと歩んで行った。もちろん、私と悠は違う高校だ。それに加え、それぞれ部活に所属している。会えるのは、日曜くらい。その一日の殆どを二人で過ごす。大切に大事にその時を過ごす。幸せだった、それでも。今も幸せ。

「ごめん、待った?」
「皐、おせーよ。暑すぎて死ぬかと思った」
「ごめんって」
「んぁ、何か顔についてるぞ?」
 そう言って、顔を覗き込んできた。
「え、嘘っ!」
顔に手を持ってこようとした瞬間、悠の唇が私の唇に重なった。
「バーカ」
「何すんのよーっ!悠っ!!」
「あはは、顔真っ赤」
 悠はお腹を押さえて笑っていた。私はむぅーっとすねた顔をする。すると、顔を私の耳元に近づけて、いつもの言葉を囁いた。




「大好きだよ」







 私は微笑んだ。




                おわり。
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Copyright (c) 2007 Akari Saseri All rights reserved.

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あとがき。

いかがでしたか?皐と悠のお話。
これは携帯で更新していたもので、私の最初の短編です。
まともに筋を通して出来た初めての小説でもあります。
今読み返すと、変な表現とか可笑しいところとかがあって笑えますが[笑]
でも、敢えて加筆はしません。最初の物語だから。
もうひとつ。これは実際自分達をモデルにしたところもあるんです。
モデルと言うより、私の望んだ未来、とでも言いましょうか。
結局このような話にもラストにもなりませんでしたがね[笑]
それでも。何か形にしたくて。
そうして出来たのがこの『いっしゅうかん。』です。
私にとって大切なこの小説が、
あなたにとっても大切な小説となりますように……そう願って。

                     2007.01  紗芹 緋李。